差別されるハイブリッド牛



2008.8.9

 里山と牛研究会では、ハイブリッド牛を放牧に利用することを考えています。
なぜ、ハイブリッド牛なのか。繁殖と肥育能力が優れているのに、子牛市場や枝肉市場ではその価値が正当に評価されていないから、生産から消費までのシステムをつくる必要があるからです。
なぜ、和牛ではないのか。すでに市場があるから、市場を相手の生産ができるからです。これまでの伝統を否定するものではありません。ただし、注意が必要なのは和牛では高い子牛価格、枝肉価格の市場があることが、資源の循環型農業を貨幣循環主導型の農業に反転させる危うさがつきまとうことです。
 里山と牛研究会では資源の循環によって成立する農業を大切にしたいと思います。

 なぜ、ハイブリッド牛は子牛市場や枝肉市場でその価値が正当に評価されないのか。
それは市場にハイブリッド牛を差別する構造があるからです。
もともと枝肉市場では品種、性別、年齢に関係なく枝肉を評価する格付規格が作られました。しかし、肉質等級に歩留等級を加えたことが、この品種、性別、年齢に関係なく枝肉を評価する原則を崩してしまいました。
 歩留等級とは枝肉をモモ、ウデ、ロースなどの部分肉にカットし、さらに骨と過剰な脂肪を取り除いた部分の歩留まりを示すもので、枝肉断面の皮下脂肪の厚さやロース芯の面積などを測定して歩留を推定し、A、B、Cの3段階で評価するものです。この推定には乳牛(ホルスタイン)と和牛(黒毛和種)を使用して作られた推定式を使います。ところが枝肉断面を測定しても骨の重量割合を推定する情報が含まれていません。そこで乳牛の方が和牛より大きく骨も太いので、骨の差は品種差として和牛の歩留まりは乳牛より2%(2.049)高いと下駄をはかせました。
 乳牛と和牛の交配により生産したF1は両者の中間値になりますから、歩留まりは乳牛より1%は高いはずですが、乳牛と同じ扱いにされています。こうして歩留等級の導入でF1が差別される構造が生まれましたが、さらにこの歩留等級に和牛は4品種(黒毛和種、日本短角種、褐毛和種、無角和種)であるという品種論まで持ち込んでしまいました。乳牛に和牛を交配してF1を生産し、F1雌牛に和牛を交配して生産したF1クロスは3/4和牛で、歩留等級は和牛と変わりませんが、ここでも乳牛と同じ扱いを受けてしまいます。そしてその差別が価格差に現れ、生産者の努力とハイブリッドの品質が正当に評価されない仕組みが生まれました。

 一般市民、消費者は和牛とは日本で生まれ日本で育った牛と考えておられる方が多いと思います。ところがオーストラリア生まれでも日本で飼育される期間が長いと国産牛となります。市場は「見えざる手」による需給バランスで成立していると言われますが、牛肉市場の「見えざる手」には、生産者の手も消費者の手も含まれていません。
 「見えざる手」とは、流通の手、独占の手、みのもんたの手、固定観念の手、無知の手等々の妖怪のような手です。そして、現在の市場に矛盾があろうとも、生産者はそれを目標に生産せざるを得ない状況にあります。
 ことに生産規模が大きくなるほど市場に出荷せざるを得なくなり、ハイブリッドで新しい市場を開拓しようという動きは出てきません。経営は毎日動いており、新しい市場開拓の余裕は規模が大きくなるほどなくなるというジレンマを大型経営は抱えています。
 資源循環型の農業は農家経営だからこそできるのです。それには生産と消費を「見える手」で直接つなぐ必要がありますから、里山と牛研究会は、生産と消費を「見える手」で直接つなぎ、資源循環型の農業を支援したいと考えています。

 静岡の富士山岡村牧場は、資源循環型畜産をめざし、生産と消費を「見える手」で直接つなごうとしている牧場です。富士山の見える牧場の美しい放牧風景の写真を是非ご覧ください。
 この牧場は草地造成2年で専門家も驚くほどみごとな草地となっています。草地に関する専門知識はなく、斉藤晶牧場のやり方を真似して、多種類の種を播き、春早く放牧することと、近所でも評判の完熟堆肥を使用したことが原因かなと本人は言っておられます。

富士山岡村牧場の紹介

富士山麓の朝霧高原に、乳牛資源と肉牛資源に草資源を組み合わせて、安全・安心で美味しくて値ごろ感のある牛肉生産をめざしている富士山岡村牧場があります。この富士山岡村牧場は牛のハイブリッド生産のトップランナーでもあります。
 ハイブリッドとは雑種や組み合わせのことで、メンデルが遺伝の研究に使用したのが始めですが、今ではハイブリッド車で知られるようになりました。ハイブリッド車はエンジンで発電し、モーターで走行するエンジンとモーターの組み合わせですが、岡村牧場の牛のハイブリッド生産は乳牛と和牛を組み合わせます。動物では近親交配をすると繁殖力が減退したり、病気の抵抗力が弱くなったりする近交退化が認められますが、乳牛と和牛を組み合わせますと、雑種強勢により元気で繁殖能力の旺盛な牛を安く生産できます。しかも乳牛は発育に優れ、和牛は肉質に優れていますので、これを組み合わせれば発育と肉質の優れた牛を生産できます。またハイブリッドの雌牛は繁殖能力が優れて、子牛が飲むには十分すぎる乳も出ますので、これを放牧して元気な子牛を生産することもできます。
 富士山岡村牧場ではこのハイブリッド雌牛の能力を生かしながら里山の草資源を活用し、しかも里山の景観を守る美しい牧場づくりに取り組んでいます。牛が日本の里山を守り、市民に信頼され、肉牛生産の将来に期待を開く、そんな夢を追うトップランナー富士山岡村牧場を里山と牛研究会でも応援したいと思います。



  • 図1,2,3 F1生産の定着と和牛の脂肪交雑分布との比較(pdfファイル) 2008.8.9更新

  • 図4,5,6 取引基準である肉質等級が、市場の影響を受けて変動する 肥育とは成長と脂肪蓄積のコントロール(pdfファイル) 2008.8.9更新

  • 図7,8,9 牛枝肉取引規格とは 歩留等級がハイブリッド牛の差別を生んだ(pdfファイル) 2008.8.9更新

  • 図10,11,12 牛肉表示偽装がハイブリッド牛の差別をひどくした(pdfファイル) 2008.8.9更新



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